部下から「この前のこと、ちょっと困りました」と言われた。身に覚えがなく、とっさに「そんなつもりじゃなかった」と返してしまう。返したあと、話がうまく続かない。
返事の最初に、まず相手の気持ちをそのまま受け取ります。「そうだったんだ。困ったんだね」と受け取ってから、自分の話をしても遅くありません。相手はあなたを責めているのではなく、自分の気持ちを伝えています。訂正から始めると、その気持ちは受け取られないまま宙に浮いてしまいます。
仲間うちの集まりで言われた「寂しかった」
アサーティブ(自分も相手も大切にする伝え方)というと、伝える側の話になりがちです。この記事では、反対側の、受け取る側の話を書きます。
たとえば、こんな場面です。仲間うちの集まりで、次の予定を決めた日がありました。その場にいなかった1人から、後日、こう言われます。
「この前、私がいないところで話が決まってたの、ちょっと寂しかった」
さて、どう返すでしょうか。とっさに出やすいのは、こういう返事です。
「そんなつもりじゃなかったよ」
身に覚えがないので、まず訂正したくなります。悪気はなかった。軽んじたわけでもない。それは本当のことです。
なぜ、訂正から始めてしまうのか
「寂しかった」と言われた瞬間、こちらの耳には「あなたのせいで」と聞こえます。相手はそう言っていないのに、です。責められたように聞こえた瞬間、人は自分を守ります。守るために、訂正します。そんなつもりじゃなかった、と。
でも、聞こえ方と、相手が言ったことは、別のものです。相手は「あなたが悪い」と言っているのではなく、「私は寂しかった」と言っています。
それなのに「そんなつもりじゃなかった」と返すと、話は気持ちの話から、つもりがあったかなかったかの話に変わります。相手が勇気を出して伝えた気持ちは、受け取られないまま宙に浮きます。
部下が上司に「困った」と言うのも、簡単なことではありません。面倒な人だと思われるかもしれない。気にしすぎだと言われるかもしれない。そう思いながら、それでも伝えてくれたのです。
先に受け取ると、同じ言葉が違って届く
では、どう受け取るか。まず、そのまま受け取ることです。
「そうだったんだ。寂しかったんだね」
これは、同意でも謝罪でもありません。あなたに悪気がなかったことと、相手が寂しかったこと。この2つは、両方とも本当のことで、ぶつかりません。だから、どちらかを引っ込める必要はないのです。相手がそう感じた。その事実を、そのまま受け取る。それだけです。
受け取ってからなら、同じ言葉が違って届きます。
「そうだったんだ。寂しかったんだね。全然そんなつもりじゃなかったから、言ってくれてよかった」
先に受け取れば、「そんなつもりじゃなかった」は、訂正ではなく、安心してもらうための言葉になります。言葉そのものを変える必要はありません。気持ちを受け取る言葉を足すだけで、話の行き先はまるで変わります。
部下からの「困った」は、上司にとっては耳の痛い話かもしれません。それでも、最初のひとことで受け取ってもらえたら、伝えてよかったと思えます。次も、ためこむ前に言ってみようと思えます。
いつでも受け取れるわけではないとき
こちらに余裕がないとき。自分も同じ場面で我慢していたとき。図星だったとき。相手の気持ちより先に、自分の中がざわついて、それどころではなくなります。
そういうときは、無理にきれいな返事をしなくてかまいません。取り繕った受け取りは、相手に伝わります。
その場でうまく返せなかったら、後から拾い直せばいいのです。「この前の話、うまく返せなくてごめんね」。何日か経ってからでも、こう言われて嫌な気持ちになる人はいません。その場で返せることより、なかったことにしないことの方が、ずっと大事です。
返事をする前に、1つだけ確かめてみてください。私はいま、相手の気持ちを受け取ろうとしているか。自分を守ろうとしているか。守りたくなるのは自然なことです。先に受け取ってから、自分の話をしても、遅くありません。
言いにくいことを伝え合える職場へ
伝える側と受け取る側は、同じ職場の両側にいます。どちらか一方がうまくなるものではなく、両側から歩み寄るものだと、私は思っています。
ハート・ラボ・ジャパンのアサーティブ・コミュニケーション研修は、言いにくいことを、角を立てずに、相手も自分も大切にしながら伝える練習をする研修です。人数や時期が決まっていなくても、ご相談いただけます。
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