上司や同僚から頼まれて、その場で「いいですよ」と答える。自分の仕事はもう山積みなのに、帰り道で「なぜあのとき断れなかったんだろう」と落ち込む。頼みやすい人のところに、頼みごとがまた集まってくる。
断れない人に仕事が偏るとき、背景には、断り方を知らないことよりも、断ることを自分に許していないことがあると、私は考えています。言い方を覚える前に、まず自分に許す。そこから始めると、「今回は難しいです」の一言が出やすくなります。
断れない人の頭の中では、何が起きているのか
頼まれごとを引き受けられないとき、「今回は難しいです」の一言が出てこない。断ったら冷たい人だと思われる。せっかく頼ってくれたのに。私が我慢すれば済むことだし。そう思っているうちに、「いいですよ」と言ってしまう。
頼む側に悪気はなくても、引き受けてくれる人のところに頼みごとは集まります。アサーティブな自己表現には3つのタイプがあると言われています。その1つの「非主張的」は、声が小さく控えめで、他の人の頼みを断れないタイプです。
言い方は分かっているのに、なぜ言い出せないのか
言い方が分かっていても、言い出せない場面があります。
伝える順番も分かっている。言葉も頭の中にはある。それでも、言おうとした瞬間に、さきほどの「冷たい人だと思われる」「私が我慢すれば済む」が頭に浮かびます。
私は、これは言えないのではなく、言うことを自分に許していないのだと思っています。
断ることは冷たさではない。頼ることはわがままではない。頭では分かっています。でも、どこかで自分に禁じている。長くそうやってきた人ほど、禁じていること自体に気づきません。
断る前に、自分に許すとはどういうことか
だから、断れるようになるには順番があります。先に、許すことです。
断る自分を「冷たい人間だ」と思っているうちは、「難しいです」の一言が出てきません。引き受けられないときがあってもいいのだと許せたとき、はじめて断れるようになります。自分で恥じたり責めたりしていることを、相手に言えるはずがないからです。
ここで、間違えやすいことを1つ書いておきます。自分に許すというのは、「私は断れない性格だから仕方ない」と開き直ることではありません。我慢とも違います。我慢は、感じている自分を認めないまま、押さえ込むことです。押さえ込んだものは消えません。形を変えて、あとから出てきます。
許すというのは、感じている自分を、そのまま認めることです。気が重い、断ったら悪いと思う。それは事実で、良いも悪いもありません。そこまで認めたうえで、引き受けるか、断るかを選びます。
アサーティブの4つのキーワードの1つに「自己責任」があります。伝えるか、伝えないかは、自分の責任で決める、という意味です。引き受けることも、断ることも、自分で選んでよい。自分に許せて、はじめて、その「選べる状態」の足場ができます。
断れない自分に気づいたとき、何を確かめればよいのか
断れなかった帰り道に、飲み込んだ言葉より先に、確かめてほしいことがあります。
「私は、自分に何を許していないんだろう」
すぐに答えは出ないと思います。長く禁じてきたものほど、見えにくいからです。それでも、この問いを覚えておくと、「いいですよ」と言いかけた瞬間に気づけるようになります。いま私は、断ることを自分に許していないのだな、と。
自分に許せた人は、相手にも許せるようになります。自分に禁じていることは、相手がやっていると気になります。自分は我慢して断らずにいるのに、あっさり断る人を見ると腹が立つ。自分に許せたものは、相手がやっていても引っかからなくなります。
職場で、言いにくいことを伝える練習をするには
「断れない人に仕事が偏り、抱え込みが起きている」。これは、アサーティブ・コミュニケーション研修のページで、職場の悩みの1つ目に挙げているものです。この研修では、一人ひとりが自分の伝え方のくせを知り、言いにくいことを、我慢せず、相手も自分も大切にしながら伝える練習をします。
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