部下に指導をすると、つい言い方がきつくなる。部下が黙り込んでしまい、本当に伝わっているのかと不安になる。あるいは逆に、言うべきことがあるのに、波風を立てたくなくて飲み込んでしまう。管理職をしていると、どちらも身に覚えがあるのではないでしょうか。
言いすぎるのも、飲み込むのも、相手と向き合っているようで、気にしているのは自分のことだったりします。伝え方を変える前に、自分がどこから言葉を発しているのかを見ておくことが先です。
部下への指導が、きつくなるのはなぜか
以前、コーチングスクールのトレーニングがありました。テーマはフィードバックです。相手が目指している状態と、今の状態とのあいだにあるギャップを伝えること。コーチが、相手を映す鏡のような役割をすることでもあります。
そこで改めて思ったのは、フィードバックは、スキルも大事ですが、それ以上に、伝える側のあり方が出るということでした。
正直に書くと、私はもともと、批判してばかりいる人でした。特にマネジャーに成りたてのころ、部下の良いところは、とってつけたように少し触れるだけ。あとは、ここがだめ、あれが足りない、と言っていました。
今思えば、あれは相手のためというより、自分のためでした。自分のほうが分かっている、と思いたかったのです。優位に立ちたかったんですね。できていない点を並べることで、自分の立場を確かめていました。
言うべきことを飲み込んでしまうのも、同じ根っこか
きつく言うのとは逆に、良いことだけを言いたくなる人もいます。フィードバックは、ときに相手にとって痛みを伴います。できていない点を伝えることになる場合もあるからです。
そういうとき、「良い人だと思われたい」という気持ちがあると、嫌われたくない、対立したくないという感覚が、見たこと感じたことを伝えるのにブレーキをかけます。
たとえば、会議で同僚の提案に引っかかりを感じても、「いいと思います」とだけ言って席を立つ。本当はもう一歩詰めたほうがいいと思っているのに、波風を立てたくなくて言わない。表面上はやさしさのように見えて、実際には相手の成長の機会を奪っていることがあります。
優位に立ちたくて言いすぎるのと、良い人だと思われたくて飲み込むのと。一見、正反対です。でも、相手のことを考えているつもりで、見ているのは、相手にどう映るかという自分の姿。方向は逆でも、根っこは同じです。
言う前の一瞬に、何を考えているか
評価に振り回されるかどうかは、伝える前の一瞬に出ます。
「これを言ったら相手はどう思うか、自分はどう見られるか」を先に考えるのか。それとも「相手が目指している状態に近づくために、今いちばん役立つことは何か」を先に考えるのか。出発点が自分なのか、相手なのか。その一点が変わります。
私たちは普段、思っている以上に他人の評価で動いています。相手の表情がふっと曇れば、何かまずいことを言ったかと気になる。上司の一言、同僚の反応、相手が既読をつけたのに返してこない数分。そういう小さな評価を拾って、自分がうまくやれているかを測っています。それ自体は自然なことです。
問題は、その評価が自分の価値そのものに直結してしまうときです。嫌われたら自分の価値が下がる、認められたら価値が上がる。そう感じていると、相手と向き合っているつもりでも、意識は「今、自分はどう見られているか」のほうを向きます。
嫌われても自分の価値は下がらないし、優位に立たなくても自分の価値は変わらない。そう思えていると、相手の反応を計算する必要がなくなって、伝えることそのものに集中できます。
明日の指導で、まず何を見ればよいか
厳しく言うこと自体が悪いわけではありません。仕事の質に対するフィードバックは、必要なものです。見ておきたいのは、言う目的のほうです。
部下に指導する前に、1つだけ自分に聞いてみてください。これは、部下のために言うのか。それとも、自分の立場や、自分がどう見られるかのために言うのか。
私自身、まだその途中で、つい自分のほうに向きがちです。
そのうえで、伝え方の順番を知っておくと助けになります。アサーティブでは、言いにくいことを「事実」「気持ち」「提案」「結果と代わりの案」の4つのステップで整理すると、相手に届きやすい形になると言われています。
言いすぎでも、飲み込むのでもない伝え方は、どう身につけるか
アサーティブの4つのキーワードの1つに「対等」があります。地位、役割、能力によらず、人として対等であるということです。部下に指導する立場でも、人として上に立つわけではありません。
アサーティブは、一般に3つのタイプで説明されます。声高に、威圧的に伝える攻撃的なタイプ。声が小さく、他者の頼みを断れない非主張的なタイプ。そして、自然体で、素直に、率直に伝えるアサーティブなタイプです。言いすぎる人も、飲み込む人も、自分がどちらに寄りやすいかを知るところから始まります。
アサーティブ・コミュニケーション研修では、5つの場面で自分の反応を選ぶ自己チェックをして、自分がどのタイプに寄りやすいかを確かめます。そのうえで、4つのステップを自分の実例で練習します。人数や時期が決まっていなくても、ご相談いただけます。
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