はじめに
ストレングスコーチの知識茂雄です。
コーチングにおいて最も重要なことの一つは、目の前にいるクライアントの個性や特性を深く理解することです。昨日、某企業の方にコーチングトレーニングの一環として実際のセッションを提供する機会がありました。この体験を通じて改めて感じたのは、相手の特性を理解することがいかに重要で、そしてそれがクライアントへの最高のギフトになるということでした。
仮説を立てながらのセッション進行
その方はまだストレングスファインダー®の診断を受けていらっしゃいませんでしたが、お話を伺いながら「この方はおそらく『慎重さ』や『分析思考』が上位にありそうだな」「『責任感』も強そう」といった仮説を立てながらセッションを進めました。
もちろん、これはあくまで仮説であり、決めつけは絶対に禁物です。しかし、相手の特性をある程度理解した上でコーチングするのと、そうでないのとでは、その効果に雲泥の差が生まれるのです。
特性を踏まえた質問の威力
例えば、その方が「なかなか決断できない」と悩んでいるとします。一般的なコーチングなら「なぜ決断できないと思いますか?」と聞くかもしれません。しかし、『慎重さ』の特性を持つ方だと仮定すると、質問のアプローチが大きく変わります。
『慎重さ』を踏まえた質問例:
- 「決断する前に、どんな情報があればより安心できそうですか?」
- 「リスクを最小限に抑えるために、今できる準備は何でしょうか?」
このように、その方の特性を踏まえて一歩踏み込んだ質問をすることで、「ああ、確かにもう少し情報収集をしてから決めたいんです」という本音が自然と出てくるのです。
特性は諸刃の剣
人間の特性は興味深いもので、誰しもうまくいっているときは自分の特性が強みとして表出し、うまくいかないときはその逆の面が現れます。
例えば『共感性』を上位に持つ人は、相手の感情に寄り添うことで深い信頼関係を築くという素晴らしい能力を持っています。しかし別の場面では「感情に流されすぎる」と批判されることもあります。同じ特性でも、状況や使い方次第で強みにも弱みにもなりうるのです。
特性の違いが生む人間関係の課題
人間関係に課題があるときは、往々にして自分の思考パターンと周囲とのズレが生じています。
典型的な例を挙げてみましょう。『共感性』を上位に持つ人と『目標志向』が強い人が一緒に仕事をすると、前者は「なぜ相手の気持ちを考えないのか」と感じ、後者は「なぜ感情的な話ばかりしてゴールに向かわないのか」と思ってしまうことがあります。
もちろん、これは他の様々な資質の組み合わせにもよるので、上記が一概に言えることではありません。しかし、それぞれの特性を理解すれば、お互いの行動の理由が明確に見えてきます。
『共感性』上位の人は相手の感情を大切にしたいのであり、『目標志向』上位の人は確実に目標を達成したいのです。どちらも価値ある動機なのです。
日常会話から特性を読み取るコツ
相手の特性を見抜くヒントは、実は日常の会話や行動の中にたくさん散りばめられています。
特性別の言葉の特徴:
- 『競争性』の強い人:「負けたくない」「一番になりたい」「勝ち負け」といった言葉をよく使う
- 『共感性』の高い人:「気持ちが分かる」「つらいですね」「○○さんはどう思っているんだろう」といった感情に寄り添う表現を多用
- 『戦略性』のある人:「最終的には何を手に入れたいのか」「全体を見渡すと」「選択肢としては」など、成果を明確にしつつ俯瞰した視点を持つ表現が多い
同じ行動、異なる動機
ここで注意すべき重要なポイントがあります。人は異なる動機づけで同じようなことをするため、ここでも決めつけは禁物なのです。
例えば、同じ「準備をしっかりする」という行動でも:
- 『慎重さ』からくる場合:リスクを避けたい、失敗を防ぎたい
- 『責任感』からくる場合:任されたことを完璧にやり遂げたい
- 『規律性』からくる場合:決められた手順やルールを守りたい
このように、表面的な行動は同じでも、その背景にある動機は全く異なる場合があります。だからこそ、あくまで仮説として捉え、相手をより深く理解するきっかけにすることが重要なのです。
最高のギフトとしての理解
相手の特性を理解することは、まさにその人への最高のギフトです。なぜなら、その人らしさを認め、活かす関わり方ができれば、お互いにとって心地よく、かつ生産性の高い関係が築けるからです。
これはコーチングの現場だけでなく、職場でのチームワーク、家族との関係、友人との付き合いなど、あらゆる人間関係において応用できる考え方です。
おわりに
ストレングスファインダーなどのツールは確かに有用ですが、それ以上に大切なのは「相手を理解しようとする姿勢」そのものです。診断結果がなくても、日々の関わりの中で相手の特性に気づき、それを尊重し活かそうとする意識を持つことで、私たちのコミュニケーションの質は格段に向上するでしょう。